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Creamはいいぞ

 Creamの話をしよう。60年代のバンドのアレである。恐らく世間的にこのバンドを紹介する文言としては、「かの有名なギタリスト、エリッククラプトンが…」という風な書き出しになることは恐らく間違いない。今は電車で家に帰る途中で、駅の本屋でクラプトン特集のギターマガジンを買って読んでいたのだけれど、やはりCreamの解説については(ギターマガジンだから仕方ないとはいえ)クラプトンが中心で、しかも彼が爆音ブルースというスタイルを考え出しブルースロック、ハードロックを生み出したのだというような評価になっていた。こういう評価には僕はけっこう不満がある。

 というより僕はこのバンドのベース兼ボーカル兼作曲者たるジャックブルースを師と崇めているのであって、彼抜きにCreamを語るような暴挙を許せないのである(クラプトンも好きだけど)。とはいえ彼の偉大さを熱弁するところから始めるのもまぁあれなので、Cream=爆音ブルースという誤謬を正すところからいこう。

  ジャックブルースは後年、「Creamは唯一プラチナアルバムを取れるジャズバンドで、エリッククラプトンはエリックドルフィーだったんだよ」と述べている。これはどういうことか。実はクラプトン以外の二人、ジャックブルースとジンジャーベイカーはブルース畑というよりジャズ畑なのである(というかジャックブルースに至ってはその前は音大でクラシックを学ぶチェリストでもあった)。ジャックブルースはCreamの直後にジョンマクラフリンとウッドベースでジャズアルバムを出しているし、ジンジャーベイカーはロンドンのジャズ界隈で「エルヴィンジョーンズよりすごいんじゃね?」とかなんとか言われていたらしい(なんだそれは)。ジンジャーベイカーのテクニックは明らかにジャズ的なドラミングが元であるし、ライドにシズルもついてるからジャズだ(って友達のドラマーが言ってた)。

 そしてそういった畑より重要なのが、Creamの十八番であったライブ長尺インプロは、ブルースの文脈というよりも明らかにジャズ寄りのものだということだ。ここで言うジャズをパーカーとかから始まる50年代ジャズで考えてはいけない。時まさしく60年代。Creamの活動開始した66年から三年前はコルトレーンがimpressionsを出し、一年前の65年にはa love supremeを出して文字通りブイブイ言わせてた頃である。コルトレーンはあくまで例に過ぎないけれど、彼のやるモードジャズ系の、一発モノで荒々しいスタイルは考えてみればCreamと大差ないと言ってもそれほど過言ではないだろう。もしくはスコットラファロが61年に遺したエヴァンストリオの名演を思い起こしてもいい。誰のソロかわからないような三者対等のインプロという意味では、最もCreamのスタイルと近いのはああういった演奏かもしれない(ちなみにジャックブルースの好きなジャズベーシストはチャーリーヘイデンにチャールズミンガスだそうである)。

 Creamがインプロを展開する曲は一発モノとブルース構成が半々程度で、前者では三者が対等の音で長々と展開を繰り広げる。後者でもそういった側面はあるが、ブルースは元々ベースやドラムがブイブイ言わせるスタイルではない。例えばジャズの名ドラマー、ベーシストはいくらでも挙げられるだろうが、ブルースの名ドラマー、ベーシストは全くピンと来ないだろう。ブルーススタイルで活躍するのはギターとボーカル、あとはせいぜいブルースハープぐらいが主で、Creamの演奏スタイルは明らかにそこから逸脱している。もちろんそれがジャズだけから成り立っている訳ではないが、少なくともジャズ+ブルース+その他よくわからないもので成立していることを見逃すべきではない。そしてそういったごちゃ混ぜ感が60年代ロックの特徴でもある。

 今60年代と言ったが、Creamは60年代にしか成立し得ないバンドとも言える。Creamとか、あとジミヘンドリックスとかのライブ映像を観ていると面白いのが、客が完全にラリっていること。どうもあの爆音長尺インプロというのはそういったラリってる客を相手にしていて生まれたらしい。なかなか今では考えられないことだが、当時の客は一曲三分とかのライブ演奏で満足しなかったらしく、もっと長くしろとの要求に従っているととうとう40分とかそういう長さになってしまったらしい。

 さてライブの話ばかりしてしまったが、当然Creamにもスタジオ音源というのがある。ここで主導権を握っていたのがジャックブルースだった。クリーム作品の作曲者はほとんどがジャックブルースで、クラプトンはデレク&ドミノス時代まで曲が書けずブルース(ややこしいけどbluesの方)のカバーを提案するのが主だったというのは本人が語ってある。もっとも、クラプトンという人は抜群のカバーセンスがあるらしく、後年のヒット曲にもカバーが多い。ブルースマンを多く紹介したことも含めて、この人にはキュレーターの才能もあるといって言い。Creamのスタジオ音源はもうけっこう古びてしまって、今聴くとあまり響かないところもあるのだが、それでも当時は珍しかった変拍子や分数コードを放り込み、ついでにチェロも弾きとなかなか面白いものもある。少なくとも、作曲能力ではジャックブルースは他の二人の追随を許すものではない(ただしこの人にはポップセンスというか売れよう受けようという意図はまるでないしクラプトンのようなスター性もないのだが…)。

   そして最後になったがなぜベースを聴かんのだと声を大にして言いたい。クラプトン好きのギタリストはいくらでもいるしcrossroadsのクラプトンソロを弾ける人間も腐るほどいるが、ジャックブルースを好むベーシストやそのプレイをコピった人間はほぼほぼ見たことがない。ジャックブルースの弾きたくり出しゃばりベースプレイを聴いて当時中学生ベース始めたてのtalbot少年は大興奮したものだった(つまりこの辺の文章は単なる思い入れで客観性ゼロなのは言うまでもないというかこれではまるで団塊の世代みたいな文章だ)。特にcrossroadsでは1:50辺りの4度をチョーキングするフレーズは大衝撃で即座にコピーしたし今でも手癖の一つになっている。ベースソロの弾き方もBBC版stepin' outのベースソロがまんま元ネタみたいなもんである。同じ60年代でもジョンエントウィッスルやポールマッカートニーはチヤホヤされるのになぜジャックブルースは名が上がらないのか。あとこの人のベースラインはとにかく勢いがあって殺気がかってさえある(個人の感想)。リズム的にも前ノリ気味で歪んだ音で弾きまくるし、明らかにベースのバッキングで使うべきでないハイフレットまで上がっていってクラプトンのギターと鍔迫り合っている(そのせいで空くであろう空間はジンジャーベイカーのこれまたうるさいドラムが埋めており、このバランスのとれたバランスのなさがCreamインプロの魅力である)。なぜクラプトンのプレイを聴いてジャックブルースのベースを聴かないのか。どう考えても同じぐらい聞こえてるでしょ。さっきポップセンスがないとは言ったが、live cream vol.2の冒頭、deserted cities of the heartを是非聴いて欲しい。5分弱だから聴いて欲しい。とにかく勢い任せでかっこいい。インプロはベースの方が押し切ってる瞬間も時折あるくらいだ。まだインプロの何たるかを知らないtalbot少年も打ちのめされた。
 最初はいつも通り滔々といい加減な論理を展開しようと思っていたのだが、もう文章がめちゃくちゃになってきた。とにかくそれぐらいCreamは、ジャックブルースは素晴らしくて大好きなのである。Creamはいいぞ。
 
 
 
 
(そのジャックブルースなのだが、2014年の秋に亡くなってしまった。その前に大阪のビルボードでライブを観れたのだが、ベースアンプのまん前で、これももう素晴らしかった。)